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のぎくのはか
野菊の墓
伊藤 左千夫
「ホトトギス」1906(明治39)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,539 字 · 67 页
言うて、嫁にしないとすれば、二人の仲はなるたけ裂く様な工夫をせねばならぬ。母も嫂もそういう心持になって居るから、民子に対する仕向けは、政夫のことを思うて居ても到底駄目であると遠廻しに諷示して居た。そこへきて民子が明けてもくれてもくよくよして、人の眼にもとまるほどであるから、時々は物忘れをしたり、呼んでも返辞が遅かったりして、母の疳癪にさわったことも度々あった。僕が居なくなってから二十日許り経って十一月の月初めの頃、民子も外の者と野へ出ることとなって、母が民子にお前は一足跡になって、座敷のまわりを雑巾掛してそれから庭に広げてある蓆を倉へ片づけてから野へゆけと言いつけた。民子は雑巾がけをしてからうっかり忘れてしまって、蓆を入れずに野へ出た処、間がわるくその日雨が降ったから、その蓆十枚ばかりを濡らしてしまった。民子は雨が降ってから気がついたけれど、もう間に合わない。うちへ帰って早速母に詫びたけれど母は平日の事が胸にあるから、
「何も十枚ばかりの蓆が惜しいではないけれど、一体私の言いつけを疎かに聞いているから起ったことだ。もとの民子はそうでなかった。得手勝手な考えごとなどしているから、人の言うことも耳へ這入らないのだ……」