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のぎくのはか

野菊の墓

伊藤 左千夫

「ホトトギス」1906(明治39)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,539 字 · 67 页

青空文庫

夢のように二里の路を走って、太陽がようやく地平線に現われた時分に戸村の家の門前まで来た。この家の竃のある所は庭から正面に見透して見える。朝炊きに麦藁を焚いてパチパチ音がする。僕が前の縁先に立つと奥に居たお祖母さんが、目敏く見つけて出てくる。

「かねや、かねや、とみや……政夫さんが来ました。まア政夫さんよく来てくれました。大そう早く。さアお上んなさい。起き抜きでしょう。さア……かねや……」

民子のお父さんとお母さん、民子の姉さんも来た。

「まアよく来てくれました。あなたの来るのを待ってました。とにかくに上って御飯をたべて……」

僕は上りもせず腰もかけず、しばらく無言で立っていた。ようやくと、

「民さんのお墓に参りにきました」

切なる様は目に余ったと見え、四人とも口がきけなくなってしまった。……やがてお父さんが、

「それでもまア一寸御飯を済して往ったら……あアそうですか。それでは皆して参ってくるがよかろう……いや着物など着替えんでよいじゃないか」

女達は、もう鼻啜りをしながら、それじゃアとて立ちあがる。水を持ち、線香を持ち、庭の花を沢山に採る。小田巻草千日草天竺牡丹と各々手にとり別けて出かける。