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きんざんそうわ
金山揷話
大鹿 卓
「中央公論」1939(昭和14)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,736 字 · 22 页
乗り込むと間もなく、汽車は駅のホームを離れた。いくつかの駅を過ぎて、窓の下を石狩川が流れだした。雨はいつか雪に変っていた。窓外の風物が、しだいに異境らしい侘しさを加えてきたせいもあったが、体が車の動搖になじむにしたがい、私はこの数日間自分の身に経験し、またひとの身のうえに見てきた男の友情の奥深さを思って再び心がうるみだした。土田が札幌まで同道してくれたのも、商用の方はむしろつけたしで、専ら私のためだったことが、頷かれた。
車が旭川駅へ入ると、森山は駅弁や蕎麦や駅売りのかん酒など一抱え買い込んできた。ながい停車時間で、まだあたりがざわざわしているのに、森山は早くも「まア一杯」と、いかにも心愉しそうにかん酒の入れ物をとって私に差した。それは熊がアキアジ(鮭)を担いでいる形の粗雑ながら陶の容器で、傾けると熊の口からコクコクと、香の強い美酒(?)がしたたり出た。その熊の口もとや小さい目のとぼけた表情が、なんとも愛嬌のあるものだった。
「これはなかなか独特の野趣がある。おもしろいじゃないか」
私達はそんなことにも旅先らしい興趣をおぼえながら、長途のうさを払おうとしていた。