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きんせんについて

金銭について

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1961(昭和36)年10月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 5,221 字 · 11 页

青空文庫

なテーマをたえず頭に描き、それを検討しようとする生活ですから、自分の家をつくるとか、自動車をかうとか、または競馬馬をもつとかそういう暇がないのが私の場合は原則なのである。ところで、ここの借家といいますのは、これはおかしな話なんですが私が借りていることは事実ですが、つまり、私は借りていますけれども、借りているという気がしないんですな。もっともこれは、家主がたいへん寛大なものですから、自分の勝手放題に、畳の部屋を板の間にしちゃったりなんかやっておりますから、そうかも知れませんが、要するに人生では、借り方にまわるほうがよろしい、貸し方にまわったらおしまいだ、ということを考えます。私ならば借り方にまわります。

永井荷風さんのお話しがでましたけれども、永井荷風さんが亡くなったときに二千万円とか三千万円とかいう遺産があった。荷風はひじょうにケチであったとか、何のためにそうしたのかという議論もおこなわれたようでありますけれども、これは実に余計な話で、永井さんはいい小説を書いて亡くなられた。そのとき、たまたま三千万円のこってたというだけなんで、これは永井さん自身の小説、小説家という永井さん自身と、その残された二千万、三千万という金とは全然、別個の問題だと考えます。