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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

12 悲願百両

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,957 字 · 31 页

青空文庫

「いいか。死んでから、何日経ったと思う――。」

「お願いするんだよ。竜手様へお願いするんだよ。なぜ願わないか。」

おこうは、惣平次へ武者振りついて、異常な力で、押入れのほうへ引きずった。

二人の影が、もつれて、天井に、壁に、大きく拡がって、揺れた。

老いた人々の、痩脛も、肋骨も、露わにしての抗争は、見ている藤吉に、地獄――という言葉を想わせた。

「惣平! 出せ! 出して、願うんだ。」

思わず出た、藤吉の声だった。

六

偶然ではあろう。竜手様という、竜の手が、海蛇の乾物か、とにかく、伝説的な品ものを手に入れて、それに、いたずら半分の試しごころから、百両の金を祈った翌日、ちょっとした自分の不注意で、庄太郎があんなことになったのは、つまり、そういう巡り合わせだったのだろう。

その逸見家の香奠が、百両だったばっかりに、ちょうど、この願いが届くために、百両のかたに庄太郎の生命を奪られたようなことになって、そこに、言いようのない怪異が生じるものの、所詮は、偶然――すべてが、再び、そういう廻りあわせだったのだ、と、藤吉は、信じたかった。

不可思議――どうしても、人間の力で説明がつかないなどということは、この人間の世の中に、あり得ない。