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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
12 悲願百両
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,957 字 · 31 页
一
ひどい風だ。大川の流れが、闇黒に、白く泡立っていた。
本所、一つ目の橋を渡りきった右手に、墓地のような、角石の立ち並んだ空地が、半島状に、ほそ長く河に突き出ている。
柳が、枝を振り乱して、陰惨な夜景だった。三月もなかば過ぎだというのに、今夜は、ばかに寒い。それに、雨を持っているらしく、濡れた空気なのだ。
その、往来からずっと離れて、水のなかへ出張っている岸に二階建のささやかな一軒家が、暴風に踏みこたえて、戸障子が悲鳴を揚げていた。
腰高の油障子に、内部の灯がうつって、筆太の一行が瞬いて読める――「御石場番所」
水戸様の石揚場なのである。
番所の階下は、半分が土間、はんぶんが、六畳のたたみ敷きで、炉が切ってある。大川の寄り木がとろとろ燃えて、三人の顔を、赤く、黒く、明滅させている。大きな影法師が、はらわたの覗いている壁に倒れて、けむりといっしょに、揺らいでいた。
番小屋のおやじ惣平次と、ひとり息子の庄太郎とが、炉ばたで、将棋をさしているのだ。母親のおこうは、膝もと一ぱいに襤褸を散らかして、つづくり物をしながら、
「年齢はとりたくないね。