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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

12 悲願百両

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,957 字 · 31 页

青空文庫

一見、まことに不可思議な事件であっても、それはみな、一言の下に明かにすることができる――「偶然事」という簡単な言語で。

否、不可思議な出来事であれば、あるほど、その連鎖に、偶然の力が色濃く働いていて、いっそう解決は容易なのである。

釘抜藤吉は、漠然とだが、いつも、こんなようなことを考えていた。岡っ引藤吉の、岡っ引らしい、これが、唯一の持論だったと言っていい。

が、この竜手様の一件だけは、その最後まで考え合わせると、ただ単なる偶然として、片づけ去ることのできないものがあるように、思われてならない。

「薄っ気味の悪い不思議だて――。」後あとまで、藤吉はよくこう呟いて、首を捻ったと言う。不思議ということばを、釘抜藤吉は、はじめて口にしたのだった。

偶然を、藤吉親分は、巡り合わせと呼んでいたが、そのめぐりあわせだけでは説き得ない、割りきれないものが、藤吉の心に残ったに相違なかった。

惣平次は、しなだれて、押入れを開けた。奥へ這い込むようにして、しばらく押入れ中ごそごそ言わせていたが、やがて、発見け出した竜手様を、汚なそうに、怖ろしそうに、指さきに挾んで、腰を伸ばした。