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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

12 悲願百両

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,957 字 · 31 页

青空文庫

番小屋を訪れるにしては、しかつめらしい声だ。しかも、武家の語調なのである。

「久住さんだ――。」

惣平次が、そそくさと起って、迎えに出た。おこうは手早く縫いものを片付けて、庄太郎が、炉の火に、焚木を加えているうちに、風といっしょに久住希十郎がはいってきて、戸口で、惣平次と挨拶を済ますと、色の変った黒羽二重の裾を鳴らして六畳へ上って来ながら、

「いや、吹くわ。吹くわ。それに、墨を流したような闇黒じゃ――こんな晩にお邪魔に上らんでも、と、大分これでも二の足を踏みましたが、またしばらく江戸を明けるでな、思いきって、出かけて来ましたわい。おう、おう燃えとる。ありがたい。戸外は、寒うての。」

久住は、大小を脱って傍へ置くと、きちんと炉ばたにすわって、手をかざした。

そして、激しく咳き入った。

二

この、水戸様の石揚場で、「お石場番所」を預かっているおやじ、惣平次夫婦は、若いころ江戸へ出て来たが、九州豊後の国、笹の関港の生れである。

笹の関は、中川修理太夫の領内で、したがって、藩士の久住希十郎とは、故郷許からの相識だった。もっとも、しりあいといったところで、身分が違う。