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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
05 お茶漬音頭
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,874 字 · 20 页
「何が何だか手前には解りませんが、私はたしかに近江屋の元七――。」
と言いかける番頭を手で黙らした藤吉は、一歩進んで久兵衛を睨めつけ、
「応さ、違わなくてか。お前さんとこへ出向いた元七は、寸の伸びた顔に切れ長の細え眼――。」
「大柄で色の黒い――。」
「それだ、それだ!」
勘次と彦兵衛が背後から合わせる。藤吉はにっこり笑って、
「まあさ、ええやな、それよりゃあ久兵衛さん、その証文てのをお出しなせえ。」
「でも、これと引換えに七百両――。」
「やいやい、まだ眼が覚めねえか。さ、出せと言ったら綺麗に出しな。」
出し渋るところをひったくった藤吉、燈に透かして眺めれば、これは見事なお家流の女文字。
「ええと、」と藤吉は読み上げた。「一札入申候証文之事、私儀御当家様とは何の縁びきも無之、爾今門立小唄その他御迷惑と相成可一切事堅く御遠慮申上候、若し破約に於ては御公儀へ出訴なされ候も夢々お恨申す間敷、後日のため覚書の事依如件、近江屋さま、つや――とある。ふうん。」
久兵衛は死人のよう。思わず差し出す元七の掌へ藤吉は証文を押しつけて、
「穿鑿無用! 久兵衛さんはこれを届けに来なすったんだ。