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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

07 怪談抜地獄

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,998 字 · 32 页

青空文庫

伝二郎は跣足のまま半破れの寮を飛び出して、田圃の畔を転けつまろびつ河内屋の隠居の家まで走り続けて、さてそこで彼は気を失ったのである。

隠居の家の板戸に斜めに貼ってあったのは、見覚えのある玄内のお家流、墨痕鮮かにかしやの三字であった。

が、ここに不思議なことには、清水屋が後から人足を送って、念のため、というよりは気休めにその古井戸を浚わせてみると、真青に水苔をつけた女の櫛が一つ、底の泥に塗れて出て来たという。

三

「器用な真似をしやがる!」

親方甚八の長話がすむのを待って、釘抜藤吉は、懐手のままぶらりと海老床の店を立ち出でた。いつしか陽も西に傾いて、水仙の葉が細い影を鉢の水に落していた。

「親分、今の話は内証ですぜ。」

追うように甚八は声を掛けた。

「きまってらい。」

と藤吉は振り向きもしなかった。

「が、俺の耳に入った以上、へえ、そうですかいじゃすまされねえ。」

と、それから、これは口の裡で、

「しかもその大須賀玄内様がだれだか、こっちにゃあちっとばかり当りがありやすのさ。おい、親方、」と大声で、「うまく行ったら一杯買おうぜ。ま、大きな眼で見ていなせえ。