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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

07 怪談抜地獄

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,998 字 · 32 页

青空文庫

許までその日のうちに駈け戻った。

金の手形に売状を掴むと、彼は仕事にあぶれている鳶の者たちを近所から駆り集めて、その足で玄内の寮へ押しかけて行った。相変らず小庭に面した六畳で、玄内は独り茶を立てていたが、隠居からすでに話があったと見えて、上り口の板敷きには手廻りの小道具がいつでも発てるように用意されてあった。その場を繕う二言三言を交した後、伝二郎はすぐに若い者に下知を下して、そこと思う壁のあたりを遮二無二切り崩しにかからせた。玄内は黙りこくって縁端から怪訝そうにそれを見守っていた。が、伝二郎はそれどころではなかった。掘っても突いても出て来るのは藁混りの土ばかり、四畳半の壁一面に大穴が開いても、肝腎の抜地獄はもちろん、鼠の道一つ見えないのである。こんなはずではないが――と、彼はやっきとなった。しまいには自分から手斧を振って半分泣きながらめったやたらにそこらじゅうを毀し廻った。

「可哀そうに、とうとう若旦那も気が違ったか――。」

人々は遠巻きに笑いながら、この伝二郎の狂乱を面白そうに眺めていた。

はっと気がついた時には、今までそこいらにいた玄内の姿が見えなかった。