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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

10 宇治の茶箱

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,760 字 · 24 页

青空文庫

「手間は取りませんよ。なに、今すぐ眼鼻をつけて御覧に入れます。」

苦々しそうにこう言い切ると、そのまま藤吉は店へ上り込んで、茶室めいた奥座敷へ通ずる濡縁の端へ、大番頭の喜兵衛を呼び出した。二本棒のころからこの年齢まで、死んだ撰十の下に働いて来たという四十がらみの前掛けは、いかにも苦労人めいた態度で、藤吉の問いに対していちいちはっきりと受け答えをしていた。昨日、三年振りで越後の上布屋清二郎がお店へ顔を見せたということは、さっき女中の話でもわかっていたが、それが、正午前から来て暮れ六つまで居間で主人と話し込み、迫る夕闇に驚いてそこそこに座を立ったというのが、いっそう藤吉の注意を惹いた。

「その時お店は忙しかったんですかい?」

と眼を細めて彼は喜兵衛の顔を見守った。葉茶屋と言っても卸しが主なので毎日夕方はわりに閑散なのがどういうものか昨日は、なかなか立て込んでいたという返事に、満足らしく微笑しながら、藤吉はまた質問の網を手繰り始めた。

「その清二郎さんという反物屋は、この三年奥州の方を廻って来たということですが、真実ですかい?」

「へい、なんでもそんなことを言って、仙台の鯛味噌を一樽店の者たちへ土産に持って参りました、へい。