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すずきもんど
鈴木主水
久生 十蘭
「オール讀物」1951(昭和26)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,827 字 · 26 页
なにごとをしようと企んでいるのか知らないが、しかしながら主水の手にあうようには思えない。上邸にも下邸にも、昨日まで小唄や囃で世渡りをしていた、素姓も知れぬ輩が黒羽二重の小袖に着ぶくれ、駄物の大小を貫木差しにしてあらぬ権勢をふるい、奥はまた奥で、お糸というあやしげな欠込女が押原右内の娘と偽って寝所の褥へ入り込み、薄毛の鬢を片はずしに結い、大模様の裲襠を絆纏のように着崩す飛んだ御中ぶりで、呼出し茶屋の女房やら、堺町の踊子、木戸茶屋の娘、吉原のかぶろ、女幇間、唄の小八などというむかしの朋輩をひきこみ、仲ノ町の茶屋か芝居の楽屋のような騒ぎをしているそうな。見たわけではないが、おおよその察しはつく。そのうえ新規御抱えの近習なるものは、まったくもって沙汰のかぎり。主侯にはどこまでひねくれたまうのか、人がましいまともな面つきを嫌い、目っかちやら兎口、耳なし、鼻欠と、醜いものを穿鑿して十数人も抱えになり、多介子重次郎、清蔵五郎兵衛という浪人上りの喧嘩屋に赤鬼黒鬼と異名をつけ、二百石の知行を与えて近習の取締にしているという法外千万な仕方である。
代々、御懇意をねがった譜代のものどもが、咄嗟にお暇をねがって退散したのは、いわれないことではない。