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すずきもんど
鈴木主水
久生 十蘭
「オール讀物」1951(昭和26)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,827 字 · 26 页
た。主水の父の伝内は番頭兼用人から勘定役頭取に役替になったが、御納戸の役は勤めかねると辞退すると、それであらためて御暇になった。
播磨守政岑は、分家とはいえ門地の高い生れだけあって、顔に間の抜けたところがなく、容貌はむしろ立派なほうだが、ツルリとした粋好みの細面がいかにも芸人染みたふうにみえ、殿様らしい威容はどこにもなかった。甲高いよく透る声で早口にものをいい、かならず人先に発言し、真面目な話にも洒落や地口をまぜ、嘲弄するような言いかたをする。剣槍弓馬から仕方舞、豊後節、役者の真似事まで、なにによらず一と通りのところまでやるので、一廉の器量の持主のように買いかぶられるが、内実は我意の強い狭量な気質で、媚るものや諂うものは大好きだが、差図がましいことを言われるのは大嫌いで、時としては狂気したように激怒することがある。酔うととりとめなくなり、いつぞやなどは吉原の往来端で、人立ちをはばからずに矢の根五郎の振事の真似をしてみせ、大方の物笑いになったようなこともあった。
播磨守政岑というのはこういう困った殿様だったが、伝内も主水も感じたことはみな心の底にとりおさめ、親子二人だけのときでも、とやかくとあげつらうようなことは一度もなかった。