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てつのきりつ

鉄の規律

平林 初之輔

「新青年 第一二巻第一〇号」1931(昭和6)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,016 字 · 30 页

青空文庫

「僕は」七十六号が答えた。「もっと極端な場合を想像していたよ。中央委員長が僕の親父だったらどうだろうなどとね。それからもし僕が暗殺することを命令された当の相手が、僕の兄弟か、僕の妻だったらどうだろうとね。僕はぞっとしたよ。そういうことは実際ありかねないからね。君は仮に君の殺さねばならぬ相手が、君の恋人の父親だった場合にはどうするね? もちろんこれは君が若くて恋を知っている人間だと仮定しての話だが? その場合君は中央委員の命令に従うかね、それとも君の本能的正義感に従うかね?」

二百二十四号はマスクの間からじろりと相手を見た。

「そんなことは有り得べからざることだ」

「いや完全に有り得る、現に――」彼は急に何か思い出して口をつぐんだ。

二人が沈黙がちに、時々思い出したようにこんな話をしているうちに、時刻は刻々たって十一時になった。

ちょうど十一時二分前に、しずかに階段を上がってくる足音が聞こえた。二人は耳をすました。足音は彼らの室の前でぱたりととまった。そして微かなノックが聞こえた。このノックはもちろん党員の間にきめられた、独得のもので、それによって、すぐに相手が党員であるかないかがわかるようになっていたのだ。