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かなづち
鉄鎚
夢野 久作
「新青年」1929(昭和4)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,659 字 · 62 页
同時に叔父の口先のうまいのにいつも感心させられた。
こうして十六の年に簿記の夜学校を出ると、私は店の電話機の横に机を一個貰って、各地から来る場況や出米をきく役目を云いつかった。同時に今まで毎晩私と一緒に寝ていた帳簿方が結婚をして家を持ったので、私が常設の宿直になった。午後四時から五時の間に叔父や店の者が相前後して店を引けて行くと、私は表を閉めて閂を入れて後を掃除した。それから翌朝の六時か七時に起きて、近所の出前屋が配達する弁当を喰って、表に水を打って掃除を済まして、詰襟の洋服に着かえるまでのあいだ、私は小遣銭の許す範囲で、古雑誌を買ったり、貸本を取り寄せたりして、いろんな空想を湧かしつつ読み耽った。その中でも特に私の興味を惹いたのは「悪」の字を取扱った小説や講談で、悪党とか、悪魔とか名付けられる人物や、そんな思想を取り入れた読みものは何故だかわからないまま奇妙に惹き付けられて読まされた。皮肉と冷笑とで、あらゆるものを堕落させて行くメフィストフェレスや、人間の尊とい血と涙を片っ端から溝泥の中に踏み込んで、見返りもせずに濶歩して行くドリアングレーなぞいう代表的な連中は、もう親友以上に心安くなって、スッカリ悪魔通になってしまったので、そんな連中に比べると、ケチな椋鳥を引っかけて身上をハタカせるのを唯一の楽しみ