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ぎんさんじゅうまい

銀三十枚

国枝 史郎

「新青年」1926(大正15)年3月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,863 字 · 73 页

青空文庫

そうして私には感ぜられた、悲痛なマクベスの心持が。

彼女は定まって一人で外出た。どんな事があってもこの私と、連れ立って歩こうとはしなかった。

良人のあるということを、隠したがっているらしかった。

家財道具が新調された。黒壇細工! 埋木細工!

植木屋が庭の手入れに来た。鋏の音が庭に充ちた。

大工が部屋の手入れに来た。鉋の音が部屋に充ちた。

屋敷が次第に立派になった。

「そうさ、伽藍がよくなければ、仏像に価値がつかないからな」

ある夕方自動車が着いた。

彼女は洋装で出かけて行った。

私は玄関まで従いて行った。それ、例の小姓のように。

自動車は自家用の大型物であった。

自動車の中に紳士がいた。顎鬚を撫して笑っていた。この市の有名な市長であった。

「ははあ誘いに来たのだな。大方ホテルへでも行くのだろう。夜会だな、結構なことだ。……俺は書生部屋で豚でもつつこう」

だが一体どうしたことだ? 一晩も泊まっては来ないではないか。

どんなに遅くとも帰って来た。

「遠慮はいらない。泊まっておいでよ」

私は心で云ったものである。

「大方の貴婦人というものは、時々紳士と泊まるものだ。