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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控 鬼の面

野村 胡堂

野村胡堂『銭形平次捕物控 鬼の面』。同一底本的分册已合并为一书。收入:銭形平次捕物控、銭形平次捕物控、銭形平次捕物控、銭形平次捕物控、銭形平次捕物控。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,082 字 · 257 页

青空文庫

二

「外に何んにも見えなかったのか」

「雨がひどかったんですもの、でも、どしゃ降りの中で――」

お菊の眼は、空を仰ぐように、庇から屋根へと見上げるのです。

「何があったんだ」

「私の眼の迷いかも知れないんですもの」

お菊はぞっと自分の胸を掻い抱くように、それっ切り口を緘んでしまいました。

「どんなものを見たんだ」

「――」

平次は重ねて訊きました。が、娘の閉じた口を開かせることは、平次の知恵でも、十手捕縄でも出来ることではありません。

「変だと思うことがあったら、そっと俺に話してくれ、今でなくてもいい、明日でも、明後日でも、気が向いたら」

「それにお前は、何んだってこんなところに立っているんだ」

若い娘が、何時までも門口に立っている不自然さに平次は気が付きました。

「だって、私、怖いんですもの」

十八娘のデリケートな神経は、血だらけな死骸に脅やかされて居るのでしょう。その死骸は、たとえ大事な師匠であったところで、仏様らしく始末をしてくれる迄は、娘に見せるような生優しいものでは無かったのです。

二

平次は其処から直ぐ、金沢町の平野屋へ行ったことは言うまでもありません。今までに調べたところでは、お園を殺し得る機会を持った者は、浪人阿星右太五郎でなければ、平野屋の若旦那金之助でなければ、投げ節の小三郎の外には無いことになります。