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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控
野村 胡堂
124 唖娘
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,006 字 · 25 页
愛想のいい滝三郎は、豪勢な居間に通して、お六に酒の用意を命じます。
「他じゃないが、近ごろ浪人と無宿者の取締りがやかましくなって、他国者はみんな身許を書き上げなきゃならない。いずれ師匠のところへも調べに来るはずだが、あっしの手から届けておくと、うるさいことがなくて済むかも知れない。――師匠の実家というのは、大坂のどこだろう。町所を言ってくれさえすればいいが――」
八五郎の言葉に、滝三郎はハッと顔色を変えました。
「それはわけもないが――」
「言って困ることでもあるのかな、師匠」
「いや、困るほどの事でもないが身分はなるべく包んでおきたい。山城屋の主人と知れると、江戸には孫店も取引先も多いことだし、何かとうるさい事にもなるから――」
それは暗い言い訳でした。八五郎の物を信じ易い心にも、四方の贅沢な空気と対照して、主人の言葉の曖昧さが、大きな謎の塊りになるのでした。
「…………」
「せめて明日まで待って下さい。妹達とも相談して、身分を明かしてよいものか、悪いものか、はっきり極めましょう」
「そうして上げたいが、それが出来ない。というのは、師匠も知っての通り、あっしは御上の御用を承るものだ」