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かぎ

鍵

谷崎 潤一郎

「中央公論」中央公論社、1956(昭和31)年1月、5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,182 字 · 200 页

青空文庫

―――私は「しまった」と思いながら、二人に病人を預けておいて、「いつもの午睡をするために」二階へ上った。

すぐに私は、書棚の蔭に隠してある日記帳を取り出して、念のために調べてみたが、セロファンテープで封をしておけばよかったのであるが、まさかそこまで用心深くはしなかったので、盗み読まれていたにしても、証拠を見付けようはなかった。―――いや、やっぱり自分の疑心暗鬼に過ぎないのだ、と、私はそうも思い直してみた。自分は少し気を廻し過ぎた、日記帳を二つに分けたこと、後の部分が二階の書棚に隠してあること、等々を、彼らがどうして知るはずがあろう。私はそう思って一とまず安心し、その時はそれで済んだのであったが、………午後八時、敏子が関田町へ去ってしまうと、またそのことが気にかかった。私は台所へ行って婆やに聞いてみた。今日の午後、私が外出したあとで誰かが二階の書斎へ上りはしなかったか。すると意外にも、「はあ、お嬢さんがお上りになりました」と云う。婆やの話だと、私が出かけてから十五分ほどたって小池さんが銭湯へ出かけた、それから間もなく敏子が二階へ上って行ったが、二三分で下りて来て病室に戻り、「何か旦那様とお話しになっていらっしゃる御様子でした」