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かぎ

鍵

谷崎 潤一郎

「中央公論」中央公論社、1956(昭和31)年1月、5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,182 字 · 200 页

青空文庫

そして深夜、病人と小池さんの寝るのを待ってしたため、某所に隠しておくことにする。………」と、ここまで書き終った時に気がついて筆を止め、しばらく隣室に耳を傾けていた。が、それきり声が聞えて来る様子がないので、書きさしの日記帳を卓の上に置き、立って病室に行ってみた。病人は静かに仰向いて、顔を真正面に天井に向けて寝ているようであった。(発病の日に私が眼鏡を外してやってから、病人は一度も眼鏡を掛けたことがなかった。彼の寝ている時の姿勢は、大体において仰向けであったが、そのために一層、あの「眼鏡のない顔」を見せられる場合が多かった)「ようであった」というのは、病室ではスタンドのシェードに布を被せて病人に光線が直射せぬようにしていたので、蔭のところに臥ている病人の顔が、急にはハッキリ見定めがたかったからである。私は椅子に腰かけて一と息つき、薄暗いところにいる病人を見据えたのであったが、何か異常に静か過ぎる感じがしたので、シェードの布を上げて病人の顔に露骨な光線があたるようにした。と、病人の眼は半眼に見開かれて、斜めに、寝台の裾の方の天井に注がれたまま、凝然と動かなくなっていた。