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かがみもち

鏡餅

宮本 百合子

「新潮」1934(昭和9)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,163 字 · 15 页

青空文庫

と云った。

「――本当にね」

素直にまさが同感し、手をやめて眺めていたが、やがて、

「いいよ、どうせじきに黒くなっちゃうから」

そして、さっさとすっかり白テープをとおし、結んで、手のひらの上に両方揃えてのせた。

「いいじゃないの?」

可愛い、むく犬の仔のような靴下である。サエは、順坊によく似合うとほめながら、

「何て、あんたがた夫婦らしいやりとりなんだろう!」

と愉快そうに笑った。

去年佐太郎がやられたとき、まさは臨月であった。生れた赤ん坊の順子という名は、佐太郎が警察の中からつけてよこしたのであった。

藍色の毛糸で大人の足袋カ※(濁点着き片仮名「ワ」、1-7-82)ァーをあんでいる満子が、上気せたような頬で、

「――少しきれいすぎたわね、これじゃ商品になっちゃう」

自分の体から編みものを離して眺めた。

「じゃ、そうしちゃいなさいよ」

「だめよ、色がこんな派手じゃ」

サエは、今夜特別の気持で、編物をする二人の手元に眺め入った。満子は、編物の内職で自身の生計をたてているのであるが、去年の暮は豊多摩刑務所におかれている夫の悌二に上下つづいた毛糸のパジャマを編んで入れてやっていた。