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かんちょうざじけん

間諜座事件

海野 十三

「日曜報知」1932(昭和7)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,989 字 · 21 页

青空文庫

サインを送られたのでQZ19は直ぐに「柳ちどり」の名前の入った紙片を手渡した。

「すみませんでしたね。まァこっちへ入り給え」黄色い外套を着た同志は云った。

其時この二つの公衆電話の甲乙とも相手のベルが喧しく鳴っていた。

甲の方の電話は、一町半ほど先の洋食屋の屋根裏へ繋っていた。

「オイ、どうだ」と向うから声がした。

「もう直ぐ出て来るから、うまく演れよ」と、こっちから黄色い外套の同志が稍震え声で云った。興奮に慄えているのだった。

「ウン、しっかり演ってみせるぞ。安心せい。相手を確めたら直ぐ報せろ!」

そういった屋根裏の青年の前には一台の機関銃が壁穴を通して外を覗いている。いつでも引金が引ける、この機関銃の銃口は、向いの高い建物の三階に、ポッカリ開いた窓に向けられている。もっと精確に云うと銃口は、向いの窓の内から見える壁掛電話機を覘っているのだった。――その電話機は、受話器が紐のままダラリと下っていた。思うに、電話で呼出された人を探しに行っているものらしい。

五秒、十秒、十五秒。

向うの窓に、一人のレビュー・ガールが現れた。頭が痛いのか、左手で圧さえている。