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とうぎゅう

闘牛

国枝 史郎

「新趣味」1922(大正11)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,976 字 · 20 页

青空文庫

それにしても宮相の身になって見れば、自分の甥の侍従官が、今度の犯罪の片割れであり、大立物であるということが、どんなにしても信じられなかった。

「いかに彼奴が感情家でも、いかに婚約が破れたと云っても、皇室の至宝を盗み出して、サンジカリストの一人に手渡そうなどとは思われない」

全く彼には思われなかった。しかし夫れにもかかわらず、ラシイヌのよこした手紙には夫れに相違ないと書いてある。

(宝物庫から飛び出したのは他ならぬ閣下の甥御です。甥御は其時耳飾を掴んで飛び出して来たのでございます。そして閣下を突き倒して置いて走り去ったのでございます。甥御はお若くてお壮健ですのに閣下は六十を越して居られ、それに御病弱でございます。ですから閣下が甥御のために倒された所から起き上がって、曲り角まで行かれる頃には、甥御は牛舎まで走って行って、耳飾を牛飼人に手渡してから、曲り角まで走り帰えり、其処で閣下と落ち合う事などいと易いことでございます)

手紙には斯う書いてあるのであった。

「しかし」と宮相は尚思った。「私の甥の侍従官が何の理由でだいそれた盗賊などをしたのだろう?」

ところでラシイヌの手紙には、その疑問をも解いている。