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とうぎゅう
闘牛
国枝 史郎
「新趣味」1922(大正11)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,976 字 · 20 页
三
居るものは牛と牛飼人ばかり、それで牛飼人に尋ねて見たが、そんな怪しい人影は見かけなかったと云う返辞だ。それで兎も角警手を呼んで牛舎の中や庭の四方を残る隈なく探がさせたが、犬の子一匹居はしない。
そこで宝蔵へ引っ返えして見ると、『サラセンの耳飾』ただ一つだけが、盗まれたと見えて影も無い……」
「それで大体解かりました」
ラシイヌは一寸頷いたが、
「で其牛舎や後庭には、今でも警手達が居りますので?」
「どうもあそこが怪しいので今でも警手達は詰めている」
三
「牛も牛飼人も居りましょうな?」
「勿論」と宮相は頷いた。
「さぞ牛が驚いた事でしょう。俄に大勢に駈けつけられて、アッハッハッ」とラシイヌは面白そうに笑ったが、「兎も角一度見たいもので、その驚かされた牛の顔を」
「冗談事ではありませんぞ!」宮内大臣はムッとして思わず声を励ました。「君に頼んだ用件は牛の詮議ではなかった筈だ!」
ラシイヌは腰を上げ乍ら、
「閣下、そのように有仰っても、ひょっとすると驚いた其牛が、驚きのあまり泥棒めを呑み込んで了ったかもしれません」
冗談を云い云い探偵はサッサと室を出て行くので、やむを得ず宮相も室を出た。