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あなんとじゅじゅつしのむすめ
阿難と呪術師の娘
岡本 かの子
「読売新聞」1928(昭和3)年5月6日~6月19日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,425 字 · 58 页
まだわたしが子供で居る時、わたしが悲しい顔をして居ると、母が手をとって訊ねて呉れたあのあたたか味を想った。(阿難少時緘黙、再び激昂の調子になり)その刹那、血塗った蓮華が何処よりともなくばらばらと飛んで来て、わたしの身心に纏い付き、そしてわたしは無闇にここへ運ばれて来た。ここは一体何処なのだ。そしてわたしは何うなるのだ。――
(娘、勿体なさ恥かしさに黙って居たが、漸く勇気を出して阿難の傍に近づいて行く。)
娘 ――阿難さま。おなつかしゅう御座います。
阿難 ――お前は誰だ。何者だ。
娘 ――池のほとりで水を差上げた者でございます。また餅施行の時に餅を頂いた者でございます。
阿難 ――おお、あの娘か――。わたしをここへ牽き寄せたのは、お前か――。して、用は何だ。
娘 ――わたくしを憐れと思って下さい、わたくしはあなた様を想うて死ぬる許りでございます。
阿難 ――それは俗情の言葉だ。わたしはあなたに用は無い。わたしを帰して下さい。
娘 ――阿難さま、女が男を慕うまごころ。これが俗情でございましょうか。
阿難 ――すべて、盛りと廃りのあるこころは俗情であるのだ。お前の今の心には、潮が満ちて居る。