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あなんとじゅじゅつしのむすめ

阿難と呪術師の娘

岡本 かの子

「読売新聞」1928(昭和3)年5月6日~6月19日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,425 字 · 58 页

青空文庫

葛と藤とは違った性質の蔓ではあるが、触れればもつれ合うのが元来どちらの蔓の性でもある。お前の一念は、娘の一念にもつれ合う便りを与えた。かくてお前は娘に縋られたのだ。

しかし阿難よ、お前の上には黎明が来た。お前はもう醒めてもいい時刻だ。法浴の後の一物にも染まない浄身を率て、再び人間に生れ戻るが宜い。お前が今、再びこの世に眼を開く時、さし出ずる慧日は必ずやお前に新なるものを見せるであろう。

(暫らく天地に息を呑むような静粛が続く。その間に陽はずんずん昇り、周囲は明るくなる。やがて阿難の死んだような体から、かすかなうめき声が洩れ始め、その声は段々高くなって行く。最後にその声の頂点となった時、口から紅の毒華の様な色を吐く。脅えて阿難を見て居た娘は、その時急いで駈け寄り阿難の口に袂を覆う。阿難は娘の袂を退け、上体を引立て眼を明かに開く。この時阿難の口はもはやきれいになり居る。)

阿難 ――(釈尊には気づかざるものの如く)はははは……面白い煩悩よ、好もしい罪よ。わたしはもうお前等を恐れはしない。お前等を追い払う心は無くなった……それをまた何故にお前等はそのように肩をせばめて逃げて行くのだ。