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かいだん
階段
海野 十三
「新青年」博文館、1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,588 字 · 32 页
僕が国研へ入って十日程経った或る日の午後のことであった。例によって僕は事務室をのぞき、ミチ子だけが机の前に坐って手紙らしいものを書いているのを認めた上、図書室の扉を押して入ったが其所には誰も居なかった。廊下へ通ずる扉が半開きになっているのが鳥渡気になった。僕はそのまま螺旋階段を二階へ上って行くと、其所にはいつものように四宮理学士の坐る読書机の上に、なんだか厚い原書が開かれてあり、当の四宮理学士の姿は見えなかったが、僕が三階への階段へ一歩足をかけたとき、階段の直ぐ背後に御当人がうずくまった儘、何か探しものでもしているような姿を認めた。僕は別に声もかけず三階へのぼって行き例のとおり雑部門の珍籍の一つである十九世紀の犯罪科学に関する英国スコットランド・ヤードの報告をひっぱりだして読みはじめた。
何十分経ったかは知らない。なんだか二階で人の呻吟くような声をきいたと思った。するとトントンと二階から一階へ降りて行く人の跫音がかすかに聴えてきた。やがてガチャンと言う硝子扉にうち当ったような音がきこえてきたが、そのままひっそりとしてしまった。二階の四宮理学士のしわぶきも聴えて来ない。