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かいだん
階段
海野 十三
「新青年」博文館、1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,588 字 · 32 页
僕は真赤になってこの小娘を睨み据えた。「僕は所長になんの恨みがあるのです。十日前に入れて貰ったばかりじゃありませんか、恩こそあれ、仇なんか……」
「古屋さん。いまの言葉は、あたしの頭が考え出したわけじゃないのよ。あたしは、或人がそう言っているのを訊いたのよ」
「誰がそう言ったんです? 僕は……」
「……」彼女は返事をする代りに、前の大きい机を指した。そのとき事務室の扉があいて佐和山女史のむっつりした顔があらわれた。
「ミチ子さん。四宮さんのお呼びよ」
ミチ子が室を出て行くと、僕は佐和山女史に今訊いた話をして女史の反省を求めた。だが女史は「わたくし、そんなことを申した覚えはございません」と簡単に否定した。そしていつになく机をはなれると僕のそばに寄って来て頬と頬とをすりつけんばかりにして、僕の思いがけなかったようなことをしらせてくれた。
「あの日、貴方がきっと見遁している人があると思いますわ。それはわたくしからは申しあげられませんけれど、ミチ子さんにお聴き遊ばせ、その人はカフス釦をあの二階のところへ落してしまったらしいのです。気をつけていらっしゃい。ミチ子さんがこれからも幾度となく二階へ探しに行くことでしょうから……」