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かいだん
階段
海野 十三
「新青年」博文館、1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,588 字 · 32 页
「そのカフス釦は何時なくなったのですか?」
「それは存じません」
「四宮さんじゃないのですか。四宮さんがなにか二階で探しものをしていたのを見たことがあるのですがね、尤も事件のあるずっと三十分も前でしたが」
「まあ、四宮さんが二階で、二階のどこです?」
「階段のうしろだったです。貴女の言われるのは四宮さんじゃないのですか?」
「エエ、それは」女史は口籠りながら「やはり申上げられませんわ」と答えた。僕は佐和山女史も何か一生懸命に考えているらしいことを感付かぬわけに行かなかった。女史のむっちりした丸くて白い頸部あたりに、ぎらぎら光る汗のようなものが滲んでいて、化粧料から来るのか、それとも女史の体臭から来るのか、とに角も不思議に甘美を唆る香りが僕の鼻をうったものだから、思わず僕は眩暈を感じて頭へ手をやった。「彼奴」がむくむくと心の中に伸びあがってくる。女史も不思議な存在だ。
僕は扉を押して図書室へ入って行った。三階へのぼる気はしない。一階の読書机に凭れて鼻の先にねじれ昇る階段を見上げていた。すると二階でコトンコトンと微かに音がする。神経過敏になっている僕は、或ることを連想してハッと思った。