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おんぼうぼり

隠亡堀

国枝 史郎

「大衆文藝」1926(大正15)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,455 字 · 10 页

青空文庫

「へえ、もう一つ、聞かして下せえ」

「好む所に応ずるのよ」

「あっさりしていて解らねえ」

「いいか、お袖へ斯う云うのさ。敵を目付けた其上に、助太刀ぐらいはしてやるから、俺の云うことを聞くがいいとな」

「成程、大きに可いかも知れねえ」

「逆応用という奴さ」

「今夜あたり遣っ付けるか」

「ところで何うだ、稼業の方は?」

「今年は何うやら鰻奴が、上方の方へでも引っ越したらしい。何処を漁っても獲物がねえ」

「じゃあ随分貧的だろう?」

「顔色を見てくれ、艶があるかね」

「お袖は何うだ? 顔の艶は?」

「それがさ、俺よりもう一つ悪い」

「つまり栄養不良だな」

「商売物だけは食わせられねえ」

「今夜だけ其奴を食わせてやれ」

「え、鰻をかい? 今夜だけね?」

「そうさ、精力が無かったら、色気の方だって起こるめえ」

「うん、こいつぁ金言だ」

「それ、金言という奴は、行う所に値打がある」

「よしよし今夜だけ食わせてやろう」

「そうだ、其処だよ、今夜だけだ。明日になったら麦飯をやんな」

「麦飯なら毎日食っている」

「おお然うか、そいつぁ不可ねえ。豆腐のからでも食わせるがいい」伊右衛門は此処でニヤリとした。「一旦手中に入れたからは、女は虐めて虐め抜くに限る。