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ざっきょかぞく

雑居家族

壺井 栄

「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页

青空文庫

「大きな声出さないで――」

さすがに浜子もおどろいたらしく、

「どうしたの?」

「大へんよ。母が、すぐあいたいって。」

「いやだあ。」

「だからさ、大いそぎで着かえなさいよ。」

「おっかない。」

「しようがないわよ。あなたが無茶なんだもの。おこってるのよ、わたしも。」

音枝はやっと母に、「召使いか」といわれた昼間の出来ごとを思い出していった。

「スーツのこと、いったのおねえさん。」

「いわないから、心配してるんじゃないの。さ、そっとはいっていって、三畳できかえなさい。ふだん着じゃあだめよ。あんたのよそゆきでなくちゃあ。」

「いやだなあ。」

いつになくしりごみをしているような浜子をみると、音枝は珍らしく意地悪くなった。

「あんた、きょう銀座歩いてたでしょう。」

「あらあ。」

しおらしく顔をあからめたらしい声だったが、くらやみではそれはわからなかった。

「みた人があるのよ。」

「おじさん?」

「ちがう。とにかく、覚悟していらっしゃい。」

すると浜子はどんな覚悟をしたのか、音枝をふりきるようにしてさっさと家の中にはいり、そのまま安江の部屋に歩いていった。

「ただいま。」

さすがに殊勝らしく手はついたが、おそくなりましたでもなければ、すみませんでもなく、