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ざっきょかぞく

雑居家族

壺井 栄

「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页

青空文庫

十一時をすぎていた。神経がとぎすまされているらしく、表の通りを歩くくつ音で浜子を感じた音枝は、彼女が門柱のベルを押さないうちに、すり足で玄関にとび出し、さらにガラス戸をあけてまった。浜子のことだ、この夜中に、ただいまあ、とあたりかまわぬ大声をあげるかもしれない。そしたらおしまいではないか。スーツもなにもばれてしまう。一そのことばらして浜子を困らしてやろうかと思わぬでもなかったが、そんなことすれば余波はいつまでも自分にだけとび散り、はねかえってくることを思うと、お人よしといわれるのはもう沢山だった。それにしても、浜子はどんな顔をして帰り、なんといいわけするだろうと思うと、業腹ながらもある期待ももてた。とにかく音枝のつもりではせいぜい三十分ぐらいと思ったのが、十二時間も人のスーツをきて遊んできたのだ。借りる時のあのたのみ方から思うとどんなに頭を下げるかと、はじめに手ぐすねひいて待ちかまえていたことなど忘れて興味がわいた。母に内しょでスーツをぬがせることにも、スリルを感じる。それを押しかくして音枝は一足外へ出ると、近づいてくる浜子を門の方へ押しもどしながら、