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ざっきょかぞく
雑居家族
壺井 栄
「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页
これはどうにも仕方がない。それにしても旅にまで出たいと思うのは、自分にひけ目があるからだろうか。調子の高い浜子の若さと太刀打ちする元気が、もうなくなってしまったのだろうか。
いつか対浜子の思いに集中している安江のうしろに走ってくる足音がし、当の浜子の声で、
「おばさまあ。」
びっくりして安江はくるりと向きをかえ、しらずしらず笑顔になっていた。浜子もまた何のこだわりもなく、
「ね、いま、電車の中でへんな男の人がいたのよ。わたしが降りたら一しょに降りたわ。わたし、走ったのよ。たすかった、おばさんの姿が見えて……」
浜子はうきうきしている。安江がどんな思いをしていたかなど考えてもみない様子で、だからゆうべ泣いたことなど忘れたような明るい顔で、
「ねえ、ほんとにへんな人なの。電車がゆれてもいないのに、ぐいぐいわたしの方へもたれてくるのよ。しゃくだからわたしもぐいぐい押したのよ。そしたらね、こんどは手をにぎるのよ。心臓ね。」
しかし、そのうわついた声はまんざらでもなさそうであり、その相手に何かまだ期待をもってでもいる様子でうしろをふりむきふりむきする浜子に、安江はうっと胸がつかえそうになる。