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ざっきょかぞく
雑居家族
壺井 栄
「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页
その上、内しょの金が五百円ある。それはどれほど兵六さんを気強くさせているかしれない。彼は時々その五百円札をとり出しては、その青っぽい紙ぎれにながめいり、得意のひとり言をいう。
――食わにゃ米一升、使わにゃかね一両か。昔の人はうまいこというわい。まったく、食わにゃ米は一升でたくさんだ。銭じゃとて、使わにゃ、きょうび五百円一枚で結構。ただこいつがいつまでもあるもんならなあ――
しかし翌日になると、その五百円を使うつもりで、彼はおそい朝めしをすますなり、出かけた。出がけにおせいは、
「そんな顔してどこへ。」
「医者だ。」
「医者? お金は?」
「中野へいって、お安さんにたのむんだよ、医者を。」
「そんな顔して、中野まで恥さらしにいくのオ。」
その顔のために、今日は家にいてもらいたいらしい口ぶりだった。近所の手前もその方がよかった。しかし兵六さんにすると、そういうおせいのそばにいることがつらいのだ。それにくじいた足はやはりいたむ。思いきってこうやくだけははらねばと思う。中野へいったような顔をして五百円を薬屋でくずして、久しぶりに映画でもみて、みんなのねたころもどってくる。