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ざっきょかぞく
雑居家族
壺井 栄
「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页
手つばをかってキリをつかっている兵六さんに安江は話しかけた。
「こんなこと、久しぶりじゃなあ兵六さん。ようまあ、柳までが見つかったこっちゃ。」
「そういな。わしもそう思て。」
「小豆島なら、きょうらあたり、荒神川の柳の木はみんな裸じゃったなあ。」
「そういな。」
と兵六さんは丸めた背をのばして安江の方をみ、
「ほんじゃけんど、あれだけ坊主にせられても、柳はやっぱり、来年はちゃんと柳の木で芽エふいとったのう。」
「そういな。こぶだらけの大きな柳の木が、細い細い枝をのばしてのう。……こんなの見るの三十年ぶりじゃ。」
「わしの方はもっとじゃ。」
桃と柳はすっかりふたりを田舎言葉にしてしまった。そしてその、故郷を出た三十年昔から更に十何年も昔のある日のことを、安江はひょいと思いだした。それは遠い遠い記憶であった。安江がまだやっと小学校にあがったか、あがらないかの時だった。姉のよしのと一しょに安江は川土手を歩いていた。白と紅とが交りあった桃の花が咲いていた。それをながめてよしのの足ははがゆいほどゆっくりで、しかも同じ場所をいったりきたりなのだった。そうして何度目かの花の下道で、黒いマントを着た若い男が、ひょこっとふたりの前に立っていた。