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ざっきょかぞく
雑居家族
壺井 栄
「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页
」
音枝が茶のお代りをもってゆくと、若い詩人は悲壮な表情で音枝にまで頭をさげた。家へき出してひと月ほどなのに、彼の青ざめた頬はくぼみ、乱れた頭髪は耳をかくしていた。
千五百円は暗黙のうちに安江にはかくしていたのだが、あるとき音枝はうっかりいってしまった。
「おかあさん、鳥取の詩人ね、いなかへ帰ってなんかいないわよ。」
はっと気づいたときにはもうかくせなかった。音枝はその日、新橋駅の近くで詩人に出あったのである。ちょんまげのはりぼてかつらを頭にいただき、とのこで顔を作った詩人は足軽のいでたちでパチンコやのプラカードをささげて歩いていたのだ。ふり返ると彼の方でも立ちどまって音枝を見おくっていた。
百円なり(おふだ)
三十円なり(ゴムヒキ)
四十円なり(清潔や)
安江が詐欺費といったのはこういう口だった。ラジオや新聞がいくら口をすっぱくして有料清潔やはおかみと無関係だと発表しても、都の紋のついたいかめしい腕章をまいた清潔やはあとをたたない。気の弱い音枝はつい、四十円ぐらいと思ってしまう。ゴムヒモ売りも勝手口へやってきて土下座の戦術に出られると、音枝の方がおろおろして、買わねばならぬ義務感のようなものをよびさまされる。