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ざっきょかぞく
雑居家族
壺井 栄
「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页
ちっとも払ってくれないんですもの。」
安江はおもわずどなりつけた。
「辛気くさい娘だね。そんなこと聞きともないよ!」
それなのに音枝はまたやってくる。こんどは音枝の方が辛気くさそうな顔をして、机に向っている安江に思わずペンをおかせた。
「おかあさん、兵六おじさんち、引っこしてるってよ。」
「なんだって。」
居ずまいを直す安江に、音枝はたたみかける。
「引っこし先も、わかんないってよ。進君泣いてるのよ。」
「…………」
「かわいそうよ。うちの責任じゃないけどさ、ちょっと、なんとかいってあげてよ。」
「わたしがなんとかいったって、どうなるもんじゃないよ。」
しかしほってもおけない気になった。応接間であった進君の部屋をのぞくと、長椅子にひっくりかえっていた彼の目は赤かった。おどろいてとび起きる彼と向いあった安江は、つとめて気やすく話しかけた。
「鷲さんち、引っこしたんですって?」
「はい。」
「あんた、あんなにせきせき行っていて、全然気がつかなかったの?」
「はい。――もうあとに別の人が移ってきていました。その人が、家、買ったんだそうです。」
「あきれたわねえ。――でも、そのうち通知がきますよ。