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ざっとう
雑沓
宮本 百合子
「中央公論」1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,832 字 · 50 页
「泊ってくんだろう?」
「ええ」
「どうだ、何か御馳走が出来ましたか」
瑛子は、食堂のテーブルのところへ坐ったままで、娘の肩へ手をかけながら現れた良人に、おかえんなさい、と云った。瑛子は、永年の習慣で、朝は何かのはずみで送り出すことはあっても、帰って来た時玄関まで行って良人を出迎えるということは殆どしないのであった。
着換えの手つだいはこまこまと宏子が父親のまわりをまわってした。洗面所へもくっついて行った。泰造は、いかにも精力的に水しぶきをあげて顔を洗う。宏子は、側にタオルをもって立ちながら、
「あひるの行水ね」
と笑った。宏子は、父の洗顔がすむと、もう髭にも大分白いものの見える父親の顔がブラシの動きと一緒に映っている鏡の横から自分の喜々とした顔をのぞかせ、宏子はそこにある台から母の白粉をとってつけた。
食卓についても、順二郎が帰らなかった。
「どうだね、そろそろはじめちゃ」
「そうしましょう。じゃ、お給仕をして」
瑛子は、
「順二郎さんの分をさめないようにね、おかえりんなったらあっためてお上げ」
と、念を押した。
順二郎は、夕飯が七分通り終りかけた頃、制服姿で現れた。