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ざっき(いち)
雑記(Ⅰ)
寺田 寅彦
「中央公論」1922(大正11)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,568 字 · 33 页
摺鉢形の凹地の底に淀んだ池も私にはかなりグルーミーなものに見えた。池の中島にほうけ立った草もそうであった。汀から岸の頂まで斜めに渡したコンクリートの細長い建造物も何の目的とも私には分らないだけにさらにそういう感じを助長した。
ずっと裏の松林の斜面を登って行くと、思いがけなく道路に出た。そこに名高い花月園というものの入口があった。どんなにか美しいはずのこんもりした渓間に、ゴタゴタと妙な家のこけら葺の屋根が窮屈そうに押しあっているのを見下ろして、なるほどこうしたところかと思った。
西の方へ少し行くと、はじめて自然の野があって畑には農夫が働いていた。しかし一方を見ると、大きなペンキ塗の天狗の姿が崖の上に聳えているのに少なからず脅かされた。
帰りの電車はノルマルに込んでいた。並んで立っていた若い会社員風の二人連れが話しているのを、聞くともなく聞いていると、毎朝同じ時刻に乗る人がみんなそれぞれ乗り込む車の位置に自ずからきまりがあると見えて、同じ顔が同じところにいつでも寄り合うようだと云っていた。そうかもしれない。しかし同じ顔を見た時の印象が、見なかった時の印象を掩蔽してそう思わせるのかもしれない。