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おしゃく

雛妓

岡本 かの子

「日本評論」1939(昭和14)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,482 字 · 53 页

青空文庫

お雛妓さん失業だわ」

と、わたくしたちを笑わせて置いてから、小さい手で膝をちょんと叩いた。

「いいことがある。あたし按摩上手よ。よく年寄のお客さんで揉んで呉れって方があるのよ。奥さん、いかがですの」

といってわたくしの後へ廻った。わたくしは興を催し、「まあまあ先生から」といって雛妓を逸作の方へ押しやった。

十時の鐘は少し冴え返って聞えた。逸作は懐手をして雛妓に肩を叩いて貰いながら眼を眠そうにうっとりしている。わたくしはそれを眺めながら、ついに例の癖の、息子の一郎に早くこのくらいの年頃の娘を貰って置いて、嫁に仕込んでみたら――そして、その娘が親孝行をして父親の肩を叩く図はおよそこんなものではあるまいかなぞ勝手な想像を働かせていた。

わたくしたちが帰りかけると、雛妓は店先の敷台まで女中に混って送って出て、そこで、朧夜になった月の夜影を踏んで遠ざかり行くわたくしたちの影に向って呼んだ。

「奥さまのかの子さーん」

わたくしも何だか懐かしく呼んだ。

「お雛妓さんのかの子さーん」

松影に声は距てられながらもまだ、

「奥さまのかの子さーん」

「お雛妓さんのかの子さーん」