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おしゃく
雛妓
岡本 かの子
「日本評論」1939(昭和14)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,482 字 · 53 页
蓮中庵では約束通りかの女を聘んで、言葉で番えたようにかの女のうちで遊んでいる姐さんを一人ならず聘んでやった。それ等の姐さんの三味線でかの女は踊りを二つ三つ踊った。それは小娘ながら水際立って鮮やかなものであった。わたくしが褒めると、「なにせ、この子の実父というのが少しは名の知れた舞踊家ですから」と姐さん芸妓は洩した。すると、かの女は自分の口へ指を当てて「しっ」といって姐さんにまず沈黙を求めた。それから芝居の仕草も混ぜて「これ、こえが高い、ふなが安い」と月並な台詞の洒落を言った。
姐さんたちは、自分たちをお客に聘ばせて呉れた恩人のお雛妓の顔を立てて、ばつを合せるようにきゃあきゃあと癇高く笑った。しかし、雛妓のその止め方には、その巫山戯方の中に何か本気なものをわたくしは感じた。
その夜は雛妓は、貰われるお座敷があって、わたくしたちより先へ帰った。夏のことなので、障子を開けひろげた窓により、わたくしは中之島が池畔へ続いている参詣道に気をつけていた。松影を透して、女中の箱屋を連れた雛妓は木履を踏石に宛て鳴らして帰って行くのが見えた。わたくしのいる窓に声の届きそうな恰好の位置へ来ると、かの女は始めた。