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あめ

雨

織田 作之助

「海風」1938(昭和13)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,261 字 · 44 页

青空文庫

戸外では霜の色に夜が薄れて行き、そんな母親の姿に豹一は幼心にもふと憐みを感じたが、お君は子供の年に似合わぬ同情や感傷など与り知らぬ母だった。

「お君さんは運が悪うおますな」

と、慰め顔の長屋の女たちにも、

「しかたおまへん」

と、笑ってみせ、相つづく不幸もどこ吹いた風かといった顔だったから、愚痴の一つも聞いてやり、貰い泣きの一つぐらいはさしてもらいましょと期待した長屋の女たちは、何か物足らなかった。

大阪の町々の路次にはよく石地蔵が祀られており、毎年八月末に地蔵盆の年中行事が行われた。お君の住んでいる地蔵路次は名前の手前もあり、よそに負けず盛大に行われた。と、いっても、むろん貧乏長屋のことゆえ、戸ごとに絵行灯をかかげ、狭苦しい路次の中で界隈の男や女が、

「トテテラチンチン、トテテラチン、チンテンホイトコ、イトハイコ、ヨヨイトサッサ」

と踊るだけのことだが、お君はむりをして西瓜二十個寄進し、薦められて踊りの仲間に加った。お君が踊りに加ったため、夜二時までとの警察のお達しが明け方まで忘れられた。

相変らず、銭湯で水を浴びた。肌は娘のころの艶を増していた。ぬか袋を使うのかと訊かれた。