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あめ
雨
織田 作之助
「海風 第四巻二号」1938(昭和13)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,421 字 · 60 页
そして、その夜、豹一は、二階六畳の雇人の部屋で寝かされた。ぐったり疲れていたが、眠れず、母親の体温を恋しがった。酔っぱらった二人の若い雇人は、声をひそめて淫らな話をしていたが、時々高らかに笑いこけた。蒲団についたナフタリンの匂いが何か勝手の違った想いで母親の側に居ない空虚さを一層しみ/″\と感じさせ、そんな笑い声に寂しく耳を傾けていた。ぼん/\、未だ寝てへんのか、良えもん見せたげよかと雇人はこともあろうに、豹一にあくどい色で彩った小さな画を見せた。描かれた人間の肢態がふに落ちず、好奇心でじっとながめていたが、彼等がその画とお君とを結びつけるいまわしい説明をきかせた瞬間、豹一の蒼白い眼は勢一杯の敵意を託されて血走り、やがてピリ/\と画が破られた。雇人の一人があっと声を立て、もう一人の男が豹一の顔を見ると、唇が赤くはれ血がにじんでいた。翌朝雇人がパン/\と電球の割れる物音に驚かされて眼がさめ、庭に出てみると、丁度二十個目の電球を投げつけようとしている豹一の姿が眼にはいった。雇人は豹一が何故そんなことをするのか分らなかったが、たゞ何となく憎たらしい子供であると思った。