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あめ

雨

織田 作之助

「海風 第四巻二号」1938(昭和13)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,421 字 · 60 页

青空文庫

思わぬ豹一に同情されて安二郎は豹一が病気で無ければ一緒に酒をのみたい位の気持を芸もなく味わされ、意外な父子の対面であった。

しかし母子の四ヶ月振りの対面はもっと微妙を極めていた。火夫になり円タク助手をやったときかされたお君は紙の様に蒼白い豹一の顔を見ると、身を切られる様な自責を感じ、皆んな自分が悪かった、どうぞ私の軽はずみを嗤ってくれと泣いた。肩身のせまい想いをしたらいけませんよ、母さんが悪いんじゃない、父さんが悪かったのだと豹一は慰めたが、どうして母親を責められようかという気持から、女の生理の脆さへの同情が湧いて来た。そして、それが、妓への嫉妬から脱れる唯一の血路だと思うのだった。しかし、安二郎に同情を感ずる時の彼は妓の肉体に対するいまわしい想い出と嫉妬を狂暴に強いられ、そんな矛盾に日夜懊悩した。血路は要するに血路であった。それを切りひらくためには自ら傷つかなければならないのだ。嫉妬は彼に女の問題を絶えず考えさしたが、しかし生理という狭い小径のみを逍遙うていた彼には、何の救いもあり得なかった。

ガレッジの二階で寝ていた頃とはすっかり養生の状態が変った。