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ゆき

雪

楠田 匡介

「探偵新聞」1948(昭和23)年5月5日号、5月15日号、5月25日号、6月5日号、6月15日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,792 字 · 50 页

青空文庫

(一)厳寒殺人事件

(一)厳寒殺人事件

「もしもし、そうです。田名網です……まだ警視庁にごやっかいになっています。……おお、久保田検事さんですか? へえ、こっちに……ええ、ええ、そうです。爺になりましてね。娘が嫁いでいるものですから……久保田さんは、ご元気で……ええ、何、休暇を頂きましてね、孫を見にきたってわけなんですよ。ほう殺人事件が?……この私まで引っぱり出さなくたって……まあまあ……とんでもない。では、顔だけ出さして頂きましょうか? いやはや」

そう言って田名網警部は電話室を出た。

「何ですの? お爺さん?」

「おいおい、お前まで、急にお爺さんかい。よせよ、なんぼ孫が出来たって、急にお爺さんもないだろう?」

「だって、お父さん、今、お電話で、ご自分でおっしゃったんでしょう」

「あっははは、聞いていたかい」

「ええ、あんな大きなお声なんですもの、坊やが起きるかと思ってはらはらしましたわ。やっと寝ついた所を……」

「いやはや」

警部はその大きな手でぶるるんと、自分の顔を一なでして、ストーブの前にどっかと座り込んだ。

「事件ですの?」

「うん。そうだってさ。いやだね、樺太まできてさ、せっかく骨休めに来たのに……」