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ゆき
雪
楠田 匡介
「探偵新聞」1948(昭和23)年5月5日号、5月15日号、5月25日号、6月5日号、6月15日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,792 字 · 50 页
(二)豪華なる書庫の中で
何を思い出したか、五十嵐が大声で笑ってぬっと、伊東に盃をつき出した。しばらく新しく盃のやりとりが二人の間で行われ、手を握ったり、肩を抱いたりして大声でくどくどしゃべり合っている所へ、僧侶の山村がふらふらと、便所にでも立ったらしくあおい顔して帰って来た。
「おや! お上人、どうしました」
その様子をみて、びっくりした五十嵐は声をかけた。
「ひどく、むかついて、すっかり吐いてしまった。なあに、すぐなおりますよ。珍しく深飲みしたものですから……」
「おやもう十二時!」
酔もさめたらしい山村は、こういって腰をあげた。五十嵐と伊東が引止めたが、やがて二人も立って山村を送った。
玄関から丁度五間程の突きあたりに、書庫の小さな窓があり、そこからまだ久三がいると見えて、ほのかな灯が見えていた。
「おう、そうそう」
山村は、台口におりかけて、一二歩書庫の方に行きかけたが、思い返したらしく、そのまま自分の爪皮のかかった足駄に、足を乗せた。
「おお、雪が止みましたな」
戸の外でこういう山村の声が聞えた。
(二)豪華なる書庫の中で
恵須取署から、署長以下馳けつけたが、雪の中の密室のこの殺人事件は幾多の謎を残したまま迷宮の中に入って行った。