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ゆきのシベリア

雪のシベリア

黒島 伝治

1927(昭和2)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,276 字 · 19 页

青空文庫

丘は起伏して、ずっと彼方の山にまで連なっていた。丘には処々草叢があり、灌木の群があり、小石を一箇所へ寄せ集めた堆があった。それらは、今、雪に蔽われて、一面に白く見境いがつかなくなっていた。

なんでも兎は、草叢があったあたりからちょか/\走り出して来ては、雪の中へ消え、暫らくすると、また、他の場所からちょか/\と出て来た。その大きな耳がまず第一に眼についた。でも、よほど気をつけていないと雪のようで見分けがつかなかった。

「そら、出て来た。」吉田が小声で叫んだ。「ぴん/\はねてるんだ。」

「どれ?……」小村は、のっそり起上って窓のところに来た。「見えやしないじゃないか。」

「よく見ろ、はねてるんだ。……そら、あの石を積み重ねてある方へ走ってるんだ。長い耳が見えるだろう。」

二人とも、寝ることにはあきていた。とは云え、勤務は阿呆らしくって、真面目にやる気になれなかった。帰還した同年兵は、今頃、敦賀へついているだろうか。すぐ満期になって家へ帰れるのだ! 二人はそんなことばかりを思っていた。シベリアへ来るため、乗船した前夜、敦賀で一泊した。その晩のことを思い出したりした。