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ゆきのやどり

雪の宿り

神西 清

「文藝」河出書房、1946(昭和21)年3、4月合併号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,995 字 · 51 页

青空文庫

何せこの歳まで、本物の戦さと申すものは人の話に聞くばかり、今になって顧みますと可笑しくなりますが、小半時ほどは胴の顫えがとまりません。いやはやとんだ初陣ぶりでございました。

そのうちに物見に出ました青侍もぼつぼつ戻って参ります。その注進によりますと、今日の戦さの中心は洛北とのことで、それも次第に西へ向って、南一条大宮のあたりに集まってゆくらしいと申すのでございましたが、時刻が移りますにつれどうしてそんな事ではなく、やがて東のかた百万遍、革堂(行願寺)のあたりにも火の手が上ります。これは稍々艮方へ寄っておりますので、折からの東風に黒々とした火煙は西へ西へと流れるばかり、幸い桃花坊のあたりは火の粉もかぶらずにおりますが、もし風の向きでも変ったなら、炎の中をどうして御一統をお落し申そうかと、只もう胸を衝かれるばかりでございます。頼みの綱は兼々お約束の松王さまばかり、それも室町のあたりは火にはかからぬと思召してか、或いはまた相国寺の西にも東にも火の手の上っております有様では、無下にその中を抜け出しておいで遊ばすわけにも参らぬものか、一向に姿をお見せになりません。