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ゆきのやどり
雪の宿り
神西 清
「文藝」河出書房、1946(昭和21)年3、4月合併号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,995 字 · 51 页
文明元年の二月なかばである。朝がたからちらつきだした粉雪は、いつの間にか水気の多い牡丹雪に変って、午をまわる頃には奈良の町を、ふかぶかとうずめつくした。興福寺の七堂伽藍も、東大寺の仏殿楼塔も、早くからものの音をひそめて、しんしんと眠り入っているようである。人気はない。そういえば鐘の音さえも、今朝からずっととだえているような気がする。この中を、仮に南都の衆徒三千が物の具に身をかためて、町なかを奈良坂へ押し出したとしても、その足音に気のつく者はおそらくあるまい。
申の刻になっても一向に衰えを見せぬ雪は、まんべんなく緩やかな渦を描いてあとからあとから舞い下りるが、中ぞらには西風が吹いているらしい。塔という塔の綿帽子が、言い合わせたように西へかしいでいるのでそれが分る。西向きの飛簷垂木は、まるで伎楽の面のようなおどけた丸い鼻さきを、ぶらりと宙に垂れている。
うっかり転害門を見過ごしそうになって、連歌師貞阿ははたと足をとめた。別にほかのことを考えていたのでもない。ただ、たそがれかけた空までも一面の雪に罩められているので、ちょっとこの門の見わけがつかなかったのである。